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神戸地方裁判所 昭和29年(行)42号 判決 1957年2月06日

原告 岩井商事株式会社

被告 神戸税務署長

訴訟代理人 辻本勇 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告代理人は「被告が昭和二七年一二月二五日原告に対してなした昭和二六年七月一日以降昭和二七年六月三〇日迄の事業年度法人課税所得金額更正決定を取消す訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として被告は前記の通り更正決定をなし原告の当該年度の課税所得金額を金二、九五八、四二八円と更正したが、右更正の理由は、原告の当該事業年度の決算における資本及負債の合計金額一二、九一一、六三二円中訴外井上商店からの仮受金二、〇〇〇、〇〇〇円及び訴外織田商店からの前受金一、〇〇〇、〇〇〇円計金三、〇〇〇、〇〇〇円は仮空の負債であるとしてこれを除外した負債額九、九一一、六三二円を資産合計額金一二、八六四、九五〇円より差引いた金額二、九五三、三一八円を以て課税所得となすというのである。然し、その金二、〇〇〇、〇〇〇円については昭和二六年一一月一七日売買契約の保証金として井上商店より受取つたが、原告代表取締役岩井恒光は直ちに訴外三和織物株式会社に貸付けたためおくれて同月二〇日記帳したところ同年一二月二二日右契約は解除されとりあえず右岩井は個人所有の自動車売却代金等より金二、〇〇〇、〇〇〇円を立替えて井上商店に返却したもので金一、〇〇〇、〇〇〇円については昭和二七年三月二六日同じく売買契約の保証金として織田商店より受取つたがこれ借入金の返済として他に流用してしまつたためおくれて同年四月二六日に至つて漸く記帳するに至つたところこれより先同月一五日右契約も又解除されこれ又右岩井において金一、〇〇〇、〇〇〇円を立替えて織田商店に返済したものでいずれも右岩井との間に決済が残つていたため同年六月の期未に至るも返済の記帳がなされていなかつたものである。しかしいづれにしても、もともとこれら負債として所得とはならないものであるから、原告は前記更正決定に対しこれを不服として適法に審査の請求をしたが棄却されたので右更正決定の取消を求めると述べた。

被告代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として被告が原告主張の日にその主張のような理由及び内容の更正決定をなしたこと原告が右更正決定に対し適法に審査請求をなしたが棄却されたことは認め、その余は争い、原告の記載は極めて不正確でこれから事実の存在を推認することはできないし、井上織田両商店との契約について手合通知書たる書面があることや自動車売却の点について国税調査官及び同協議官による各調査に際して何ら説明がなかつたことや前記岩井が井上商店に対する返済を立替えたと称する直前に三和織物株式会社より貸付金の返済を受けているので立替える必要がなかつたことなどから原告主張の金額は負債ではなく、又返済の事実もなかつたものと認めるべきである。従つてこれを原告の所得に加算してなした本件更正は正当であると述べた。

証拠<省略>

理由

被告が原告主張の日にその主張のような理由及び内容の更正決定をなしたこと、原告が右更正決定に対し適法に審査請求をなしたが棄却されたことは当事者間に争がない。

そして原告主張の金二、〇〇〇、〇〇〇円及び金一、〇〇〇、〇〇〇円がその主張の頃原告に入金せられたことも当事者間に争がないのであるが被告はこれが所得であると主張し、原告は訴外井上織田両商店との間に締結された契約の保証金として預つた負債であつてのちこれらの契約はいづれも解除せられて右金額は原告代表者岩井個人から立替を受けて返済されたものであるから所得ではないと争うのでこの点について考える。

原告代表者本人訊問の結果並に証人長浜忠雄の証言によれば原告会社の帳簿の記載は必ずしも事実に忠実なものではないこと成立に争のない甲第一四号証の記載によれば本件取引が経営規模に照し当時年間を通じ一口の取引としてはケタ外れに大きい額であつたことにも拘らず証人長浜の証言によれば始めての取引先であるこれら井上織田両商店より名刺もうけとらず連絡先も明らかにしていなかつたこと及びこれらとの取引契約の内容契約解除の理由契約保証金返済の事情が曖昧であること、成立に争のない乙第一号証の一の記載並に原告代表者本人訊問の結果や原告の主張における本件取引についての説明は帳簿伝票その他関係書類や関係人への照会の結果を総合し検討したうえでなければできないような複雑なものではなく原告社長において記憶のままいつても誰にでも直ちになしうる内容のものであることにも拘らず証人弓削芳武証人広藤啓輔の各証言によれば国税調査官同協議官の調査に際しては原告社長は何ら納得できる説明なく剰え調査官の調査に際しては原告社長は唯税額の軽減を依頼するのみで甲第一、三、五、七号証の本件取引には最も重要と思われる書類すら提示していなかつたこと、成立に争のない乙第三号証と証人浜本義一の証言によれば原告代表者岩井恒光が井上商店に対する金二、〇〇〇、〇〇〇円の返済を原告に資金がなかつたから立替えたと主張する昭和二六年一二月一六日の直前である同月一四日までに原告は訴外三和織物株式会社より同額の資金の返済を受けていたことがそれぞれ認められる。証人長浜忠雄の証言に原告代表者本人訊問の結果中右認定の事実に返する部分は措信できない。以上の事実によると、計金三、〇〇〇、〇〇〇円の入金の性質は明らかではないが、少くとも返済すべき必要のない入金であり原告主張の井上織田両商店への返済はなかつたものと認めるべきであつて、以上の経過から見ると、本来は利得として計上すべきものをことさら湖塗したものと推認することができる。原告提出のその他の証拠によつてもこの認定をくつがえすことはできない。従つてこの金額を原告の所得に加算してなした本件更正は正当である。

よつて原告の請求は理由がないからこれを棄却し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 森本正 三好徳郎 丹野益男)

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